ゲーオタ人生論

ゲームをクリアして考えたことの備考録

【ポケモンシンオウ考察①】やぶれたせかいとアイヌの地獄

ポケットモンスターブリリアントダイヤモンド・シャイニングパール発売おめでとうございます!!!!!! 大変楽しませていただいております。

さて、久し振りのゲーム考察ですが、自分、BDSPを踏まえた上の「LEGENDSアルセウス」をめちゃくちゃ楽しみにしており……www.amazon.co.jp邪な動機ではあるのですが、いずれ訪れるアルセウスでの本気考察のため、今のうちシンオウ地方について個人的にまとめておきたいと思い、記事を書くに至りました。殆ど自分用の備考録ですが、楽しんでいただければ幸いです。

 

今回は、「やぶれたせかいとアイヌの地獄」です。

 

シンオウむかしばなしとアイヌの信仰を比べて

ミオシティのミオ図書館で読める「シンオウむかしばなし」をご存知でしょうか。ストーリーの進行上、ミオジム撃破後、ナナカマド博士に呼ばれるので、大抵のプレイヤーが読んでいるのではないかと思います。図書館の文献には他にも、シンオウ神話やトバリ神話もあるのですが、今回は「シンオウむかしばなし」を元に考察を進めていきます。

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 その①

うみや かわで つかまえた
ポケモンを たべたあとの
ほねを きれいに きれいにして
ていねいに みずのなかに おくる
そうすると ポケモンは
ふたたび にくたいを つけて
この せかいに もどってくるのだ

 その②

もりのなかで くらす
ポケモンが いた
もりのなかで ポケモンは かわをぬぎ
ひとにもどっては ねむり
また ポケモンの かわをまとい
むらに やってくるのだった

 その③

ひとと けっこんした ポケモンがいた
ポケモンと けっこんした ひとがいた
むかしは ひとも ポケモンも
おなじだったから ふつうのことだった

①での「ポケモンを食べている」という明確な描写。DPt発売以前からジョウト地方等でも、コイキングヤドンのしっぽの食用の話は出てきていますが、ここでの食は、もう少し生活に密接であるような印象を受けます。(骨を送る話は後述します)

コイキング等は「消費」である一方、シンオウ神話で語られている食は「共存」です。

それは、②や③でも顕著です。②はポケモンと人間が皮の有無はあれど「同種」であることを述べ、③においては、人とポケモンの結婚を例に挙げ、これまた「対等」であることを述べています。

あくまでこれは昔話であり、現代(仮にDP発売時の2006年くらいとしておきます)とは、異なった文化であることはゲーム内でも明らかですが、シンオウの昔にかつて通底していた文化なのでしょう。

さて、シンオウ地方は、言うまでもなく北海道を舞台にしたゲームです。

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北海道は元々、蝦夷地(これも本州から見た通称ですが)という場所でした。明治時代が始まった際に、開拓使という役所が設立され、本州の人々が蝦夷地を本格的に開拓した結果、今の札幌・小樽などの都市が生まれました。栄えた港街や炭鉱などの開拓の元ネタは、コトブキシティやミオシティ、クロガネたんこうやタタラせいてつじょにも見られます。

では、開拓以前の北海道に、人は住んでいなかったのでしょうか?

いいえ、もちろんそんなことはありません。旧石器〜縄文時代の北海道の人々は、本州同様、竪穴式住居に暮らし、狩りをしては縄文土器で煮炊きをする、狩猟民族として生活していました。しかし、中国からの稲作文化や仏教、金属器の伝来によって発展し、弥生時代以降、戦乱の世を経て、数々の幕府を築いていく本州の歴史とは異なり、寒冷によって稲作ができなかった北海道に、外来の文化は根付きませんでした。北海道は弥生時代を迎えず、狩猟・漁労・採集などを軸とした「続」縄文時代として、独自の文化を築いていくのです。

13世紀頃に成立し、北海道に根付く文化、それがアイヌ文化です。

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アイヌ文化については、折を見て、この記事の中でも解説していこうと思うのですが、漫画「ゴールデンカムイ」が、ちょうど明治大正期の北海道の話であり、アイヌ文化についての造詣が大変深い物語となっていますので、アイヌ文化の入門書として非常にお勧めいたします。(すみません、ただの販促です。このブログの記事の中でも、今後共大変お世話になります)

 

かつて、狩猟生活をしていたアイヌ文化ですが、その狩猟には独自の信仰が強く根付いています。

アイヌの信仰では、あらゆるものに「魂」が宿っていると考えられました。植物や動物など採集・狩猟の生活に深く関わり、人間に自然の恵みを与えてくれるもの、火や水、生活用具など人間が生きていくのに欠かせないもの、あるいや天候や自然災害や病気など、人間の力の及ばないものなどを「カムイ」(日本でいう神のようなもの)として敬いました。

カムイたちは、天上や山上、海中などそれぞれのカムィモシㇼ(カムイの世界)に人間と同じような姿で、喜怒哀楽をもって暮らしており、彫刻や刺繍などの手仕事をしたり、結婚して家庭を持ったりしながら、仲間たちと一緒に暮らしていると言われています。カムイは何らかの役割を担ったり、遊びに行きたくなったりすると、カムィモシㇼからアイヌモシㇼ(人間の世界)へやって来ます。その時に、人間の姿から、動物や植物、あるいは道具や自然現象などに姿を変えると言われています。ものがカムイなのではなく、カムイがものなのです。

この世界は、人間とカムイがお互いに関わり合い、影響を及ぼし合い、「対等」な関係を築くことによって成り立っていると考えられていました。このような考え方は、農耕を行わず、自然との関わりを深く持つ必要があった生活だからこそ、生きるために必要なものを手に入れたり、使いこなしたりするための知識やしきたり、天災や病気への心構えなどを表していました。まさに、カムイへの信仰は生きる知恵に直結していたのです。

このアイヌにおける「人間」と「カムイ」の関係性を基にして、シンオウむかしばなしの「ひと」と「ポケモンは書かれています。

シンオウむかしばなしその②は、まさに先述したカムィモシㇼからアイヌモシㇼにやってくるカムイの通りです。むかしばなしには森からやってくると書いているので、動物のカムイではあるのかもしれませんが、ならば、森に棲むポケモンと非常に等しいですね。(BDSPでは、ひでんわざで毎度、ご丁寧に野生のポケモンがやってきてくれます。ひでんわざ消去というメタ的なことを抜かせば、彼らこそ人間を助けるために姿を変えてやってきたカムイなのかもしれません)

また、その③についてですが、アイヌに伝わる散文説話の中では、人間とカムイが結婚した話が数多くあります。異類婚姻譚についての研究は数多くされているので、ここでは割愛しておきます。アイヌの散文説話の中には、異類婚が忌避されているものもあるようですが、シンオウむかしばなしにおいてはひととポケモンの普通の「対等」の論拠として、アイヌ異類婚姻譚を例に挙げているようです。

 

このように、ひととポケモンとの関係性は、アイヌ文化における「人間」と「カムイ」になぞらえて、「共存」「同種」「対等」ということを挙げています。シンオウ地方が、実際の北海道開拓のような歴史を辿ってきたかは果たしてわかりませんが、ひととポケモンとの対等な関係性は、前作のRSEよりも顕著に描かれているように思います。(アニメではピカチュウとサトシの第1話から語られ、ゲームでもDPt以後はBWのNやXYのAZやメガシンカ、SMのリーリエなどでより強いメッセージ性として語られていくものですね)

その「対等」の論拠として、DPtでは、アイヌ文化を元ネタに挙げて使われているということです。以下、それを元にして、アイヌの世界構造とシンオウの世界構造を比較していきたいと思います。

 

また、内容は少し脱線するのですが、アルセウスの映画配信限定イベントでこんなものがあります。

ポケモンこだわりブログ:更新終了 アルセウス DPtの図鑑とプラチナ限定イベント

このシンオウの成り立ちについては、あくまでこの自称哲学者の一意見ですが(ただ、おそらくシント遺跡イベントの人と同一人物)「同じ『こころ』を持つから、ひととポケモンが入れ替わったり結婚したりした」という論拠、何かしらの哲学論でありそうですね。アイヌでいうなら、「こころ=魂」の話に落ち着くでしょうか。「こころ」というテーマは、DPtにおいてシンオウ神話というよりは、アカギの理想の方でたくさん語られていた印象があります。

この辺りの話もレジェアルに期待!

 

おくりのいずみと送りの儀式

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こちら、殿堂入り後に214番道路からいける、かくれいずみへのみちを通った先に存在するおくりのいずみです。ここには、さらにもどりのどうくつが繋がっています。

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おくりのいずみのモデルは位置的に摩周湖。形状としても、同等のカルデラ湖であることが明らかです。霧の摩周湖というほど濃霧なことでも有名ですが、もどりのどうくつ内での霧深さに反映されているのかもしれません。

このおくりのいずみ、先述したシンオウむかしばなし①で、まさに「ポケモンの骨」が送られていた「水」そのものであると思われます。ここで、ひとは食べたポケモンの骨を洗い、再び肉体が戻ることを望んでいたのでしょう。

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もどりのどうくつ内での記述では、生者と死者とが交錯する場所であることも明らかとなっています。DPにおいては最奥にギラティナが存在し、捕獲することが可能です。

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ギラティナが棲んでいるのがやぶれたせかいだとして、「古代の墓場=もどりのどうくつ」でしょうか。今は使われていないという意味で、古代なのかもしれません。つまり、おくりのいずみは(死者)送りの泉、もどりのどうくつは(生者への)戻りの洞窟となり、かなり直接的なネーミングであるように思えます。

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また、ギラティナ捕獲後、もどりのどうくつの最奥を来訪すると、通過した部屋数に応じて、道具が手に入ります。「れいかいのぬの」「きちょうなホネ」「ほしのすな」の3つです。きちょうなホネについては、水で送られた骨そのものでしょう。ほしのすなに関しては、個人的に元ネタ通り、死んだ有孔虫の殻、つまり死骸イメージなのかなと思っております……。

れいかいのぬのについては、ここがシリーズ初出の道具でもあります。そもそもが専用道具なのですが、道具自体よりもこの道具によって進化するポケモンに着目したいところです。

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人を霊界につれていくポケモン、ヨノワール。その存在からしても、生と死の二つの世界が混じる場所にはあつらえむきと言えますね。

ギラティナは勿論、そこに置かれる3つの道具の全てが死に関わり、それを送る場所として存在している地。非常に曖昧であるとも取れます。

 

また、このようなシンオウむかしばなしで語られていたような送りの儀式は、北米の狩猟民族インディアン等ではよく見られるものなのですが、アイヌ文化にも考え方として同様のものがあります。有名なものだと、イオマンテでしょうか。

イオマンテは、ヒグマなどの動物の魂をカムイの世界へと送る儀式です。狩猟動物であれば、特にカムイがヒグマである必要はなかったそうですが、有名なのはヒグマです。初春、冬眠中の親グマを獲ったとき、その巣穴に仔グマがいた場合、その仔グマを生け捕りにして、2年程大切に飼い育ててから、村をあげて盛大な儀式を行って、仔グマを殺すことでカムイの世界に送り帰します。これは生贄ではなく、感謝したクマのカムイが再び人間の世界に訪れることを期待しているのです。

また、鮭の儀式としては、豊漁を祈って獲った鮭の頭をイサパキニという木の棒で叩くカムイチェㇷ゚ノミというものがありますが、十勝川流域のアイヌで、鮭の下顎骨をイナウと共に川に流す儀式が確認されています。*1

こちらのアイヌの伝承の少なさといい、おくりのいずみにおける送りの儀式については、イオマンテにおけるアイヌ信仰全体とインディアンモチーフから取られているのかなと思いますね。

 

さて、もどりのどうくつは、プラチナにおいて、やぶれたせかいとの出入口になっています。骨送りやヨノワールで示唆された、死者の世界。実質、シンオウ地方ではやぶれたせかいがその役割を担っているのではないかと思われます。さて、そのやぶれたせかいとは、一体何なのでしょうか。

 

やぶれたせかいとテイネポㇰナモシㇼ

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やぶれたせかいは、ギラティナの棲家であり、ギラティナがはっきんだまなしにオリジンフォルムという真の姿のまま存在できる場所です。ギラティナがここへ追い出されたという事実は図鑑に記述(またギラティナの由来はguilty(有罪の)+platinum(プラチナ)だという説)がありますが、このやぶれたせかいは、前述のゲーム内の話を参照するならば、死の世界です。

このやぶれたせかい、BDSPのイベントでも再現されていますが、特にプラチナをプレイして歩くとその異質さは顕著であり、時間も空間もなく、重力を無視していて、まるで180°反転しているような様子が見られます。(反転世界という名称は映画発祥)おかげで不気味さは漂っているものの、なぜ、やぶれたせかいという死の世界のモチーフを「反転」したのでしょう。答えは明らかです。

アイヌの死者の国が「反転」しているからです。

アイヌ世界における死の国は、ポㇰナモシㇼという名が付けられています。この死者の国は、人間世界のように山川や草木があり、死者の魂は、生前同様に季節の運行に合わせて暮らしています。しかし、この世が夜ならばあの世は昼、この世が夏ならばあの世は冬となり、すべてのものが逆立ちで歩いているなど、すべてがあべこべであるという小話が伝わっています。死者が来世で不自由しないように、夏に死んだ者には冬靴を履かせた上で埋葬したということもあったようです。

また、岩山の洞窟がポㇰナモシㇼの入口とされ、死者は、墓に建てられた墓標を杖として歩み、死者の国へと赴きます。このような洞窟に人間が知らずに入り込んでしまい、死者へと声を掛けても、死者から生者の姿は見えないそうです。

そしてポㇰナモシㇼの下は、テイネポㇰナモシㇼ(じめじめした最低の地獄界)となっており、ここは英雄神に退治された魔神生前に悪行を重ねたものが落ちるところで、落ちたものは決して再生することがありません。

なお、死者は永遠に地下世界で暮らすのではなく、地下のトンネルを潜った先に高山の山頂に出て、最終的には天界に落ち着くとの説もある、とのことです。*2

 

したがって、やぶれたせかいのモチーフは、アイヌの死後の世界であるポㇰナモシㇼしいては、地獄であるテイネポㇰナモシㇼであると推測されます。死の世界はもどりのどうくつから繋がり、その世界は反転し、罪を犯したギラティナとアカギが落ちるのです。(プラチナのストーリー展開上ではやりのはしら、バグ技ではてんかいのふえまで繋がっているのも面白いところですね)

 

とりあえずまとめさせていただきましたが、レジェアルで、さらなるアイヌ文化との関連、しいてはシンオウ世界の掘り下げを非常に期待しております。

記事は随時更新していきたいと思いますので、何か質問、意見等ありましたらお気軽にお寄せください。